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古田武彦とともに 創刊号 1979年 7月14日 古田武彦を囲む会編集

九州王朝論の古田さんと私

いき一郎

 76年から77年末まで、私は東京の「古田武彦と古代史を研究する会」の幹事を務めた。会の発足までには若干の準備期間があったが、連絡先の決定に時間がかかったことを覚えている。私が古田さんの会をつくろうと思ったのは在野の研究者を声援したいという気持からであった。すなわち、私自身はそれほど邪馬壱国論に興味はなかったし、テレビ・ジャーナリスト一般よりやや強かった程度という方が正確だったかもしれない。
 ただ私共の九州朝日放送は民放の中では、最も多く邪馬台国や卑弥呼の作品を放送しているラジオ・テレビ局であったし、72年末には社長名(高野信=現テレビ朝日)で中国科学院に「日中邪馬台国シンポジウム」の申し入れをしている。私は東京でアフタヌーン・ショーのディレクターもしたが、小社の東京支社に13年ほどいたのである。この間に古代史に熱中し「古田・研」の始まる前につぎのような論文を書いていた。
75古代史年表 四大ブロック対照 七〇〇枚
76聖徳太子は実在したか 三五〇枚
77古代略史(非ヤマト史の試み) 四〇〇枚

 すなわち、私は古代列島史の全体像をつかもうと努めていて、日本人として初めて聖徳太子を根源的に疑うことになった。(「聖徳太子・・・」九州人誌79・4〜6連載)拙論は古田武彦さんと梅原猛さんの学説がなければありえなかったものである。
 古代略史の筆をすすめていた77年 1月のある日、私は思わず強い魚信を覚えた。この前後は私の一生でもっとも貧しい日々だったろう。私は生口だった。いわば住宅奴隷のひとりだったから、図書館に通い、自室で考えつめたのかもしれない。私は邪馬台国は古田さんにお任せして、ほかのことを研究しようとしていたのである。それが邪馬壱国に傾いてしまったのは皮肉なことだった。九州王朝=ツクシ政権史の中で倭国の邪馬壱国をとらえる、記者のはしくれとしては、一度唱えたことは訂正したくなかったし、あとで邪馬壱国を移動させたくはなかった。
 私の邪馬壱国論は北部九州の「広域論」として生まれた。77年に東京で個人発表会を行いーー 聖徳太子論と天智=夫余勇説もふくめ ーーテープを古田さんに送った。(79年「邪馬台国」誌創刊号所載)以来、東京、九州で講演依頼もふくめ、発表会をつづけ、婦人との古代史ゼミ(約十講)も経験した。ついでながら、77年から78年にかけて、私はこの邪馬壱国広域論(五〇〇枚)と「日中古代交流史」(四〇〇枚)を記した。訪中を前に勉強しておこうと考えたのである。が、論文はでき上がったが私の訪中(高田敏子さんら“野火”グループと)はならなかった。私が九州のニュースキャスターとして転勤したためであった。
 これらの所論の中で、私は古田さんに学ぶところが大きく、心から感謝している。同時に古田さんはいわれるのだが、もっと厳しく批判してくださいということに未だに応えられないことを残念に思う。
 九州王朝論は部分的には古田さんと同じ時期に在野の泊勝美(フクニチ新聞記者)、作家の長谷川修(下関在住「古代史推理」新潮社)両氏らが開拓した。長谷川氏は78年「近江志賀京」をあらわしたが惜しくもさる五月一日他界された。古田さんと同年の工学士であった。私は古田史学と同じように長谷川史学の完成に期待してきたがまことに惜しまれてならない。古田ーー
長谷川合同講演会なども可能だったと思われるからである。
 さて、将来の問題としては古田さんの九州王朝論を文献の上で発展させる方向と考古学の上で実証させる方向をあげることができる。
 いずれの場合においても、基本として科学的に考えることと国際正義(日本書紀の反新羅、反エミシヒステリーを割引いて)の立場を固めることが必要であろう。私はごく短い期間「東アジアの古代文化を考える会」東京幹事をしていて理工系の人たちの多いことを知った。世代の上で、専門学者においても上田正昭氏らのあとの新制大学卒の人々の時代がくるのではなかろうか。歴史はもっと理数的に考えられていいのではないかという記者・ニュースキャスターとしての自戒をふくめての考えである。
 古田さんは、心ある読者に守られて読者との対話の中での研究という道を歩く。私たちは古田さんの時間を大事にするよう努めよう。古田さんには九州王朝の体系化から、列島古代史全体像の追求という仕事があると思われるのである。そのうち、ツクシの地においても古田さんの会が生まれるものと信じている。
(古田氏後輩47歳)

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古田批判は、『季節 ー古田古代史学の諸相ー』 (第十二号1988年8月15日 エスエル出版会)の「古田武彦批判」を参照して下さい。


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