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市民の古代・古田武彦とともに 第二集  1984年 6月12日 古田武彦を囲む会事務局 編集委員会
 特集十
 歴史教育へ市民からの問いかけ 特集十三

皇国史観

中谷義夫

 記紀によると或日、仁徳天皇が高き屋に上って下界を見渡すと民家から煙が出てないことに気づいた。これは民が貧しくて炊くものがないのであろうと天皇は憐みの情を起した。それで三年に渡り納税を中止させて再びその場所に立つと民家からしきりに煙の立つのが眺められた。日本書紀では更に三年の免税を続行したとなっているが、その為に天皇はぼろ衣をまとい雨のもる高き屋に立ちながら「朕すでに富めり」と喜んだというこの説話は大阪人にとって特に馴染み深い。もう十年も昔のことになるが共産党系の納税団体である商工会がこの大阪人の偶像を破壊しようと考えたのであろうか、この伝承は実は天皇の仁慈ではなくて三年間の免税は、飢饉がひどくて各所に一揆が起こったからやむなく行ったもので最近発見された古文書にそのことが書かれていると事務局が学習の時、再三これをくり返した。私たち商売人はなんだ、そんなことだったのかと合点がいった。然しこの頃のように古代史ブームになると五世紀の古文書などある筈がないわけだからこれは共産党の政策だったことがわかる。然し又一揆がなかったという記録もないのだから古代史というものは面白い。推理と説得力が勝つ世界だ。果して大阪人の偶像が破壊されたかどうかはわからないが今も大阪市歌にはこの話が盛りこまれている。だから大阪市中の小中学生は「高津の宮の昔より代々の栄を重ね来て民のかまどに立つ煙」と黄色い可愛いい声を張り上げて歌っている。
 政治家が政策の為にこういうことをやるのだから文部省あたりは国の政策の為に教科書など史実がどうあろうと仲々改変しないのではないか。大体文部省は昔から学問と教育とは違うという観点に立っているのだから役人が先ず目覚めねばならない。
 さて古代史に於ける皇国史観というと、凡べての歴史事実を大和朝廷に関連させて一元的に解釈することだが、然し現実には国民に実害を与えてはいないが、考えて見ると皇国史観の為にこんどの第二次世界大戦私たち国民はいかに大きな犠牲を強いられたことであろうか。八紘一宇の精神を以って外国を侵略する。生きて虜囚のはずかしめを受けず、悠久の大義に生きて神風特攻隊、そして一億玉砕、うちてしやまむ、これみんな皇国史観から派生したものである。(62才)


 これは参加者と遺族の同意を得た会報の公開です。史料批判は、『市民の古代』各号と引用文献を確認してお願いいたします。
新古代学の扉 インターネット事務局 E-mailsinkodai@furutasigaku.jp

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