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市民の古代 第10集 1988年 市民の古代研究会編
10周年記念号発刊に寄せて

十周年を祝って

大阪哲学学校校長(大阪経済大学学長) 山本晴義

 「市民の古代研究会」発足十周年おめでとうございます。
 周知のように、最近は日本の古代史研究のブームの時代と言えると思います。梅原猛氏が前中曽根首相と手を組んで国立「国際日本文化研究センター」をつくり、神秘主義的な古代日本文化像を鼓吹して、ナショナリズムをあおり、先日は構造主義者・文化人類学者レヴィストロース氏らを集めて国際研究集会を大々的に行いました。このレヴィストロース氏の報告にしても、科学的な歴史学に対立する「野生の思考」「神話的思考」に立って、記紀神話を世界最高のものとして持ち上げ、縄文から現代のエレクトロニクスにいたるまでの日本文化の深層をつらぬく日本独自の精神的特質を示すものとして礼賛するものでした。
 現在日本は、あの悪夢の一九二〇年代、一九三〇年代の道を着々と歩んでいます。私は今、かつての日本のファシズム化を決定的にした一九三五年の「国体明徴運動」を思いだしています。丸山真男氏は、日本ファシズムの特徴として「上から、なしくずし的」、「著しい連続性」をあげました。現在の急速な高度情報化社会への移行の中で、「今は感覚の時代である。感性の時代である」とさわがれています。
 しかし、世界第一の債権国になっている現在の日本の国際的な「進出」の中で、「パイオニア国家」としての「日本のアイデンティティ」が「上から」叫ばれている時、それが「なしくずし的」に、梅原氏らのようなナショナリズムと結びついていく危険性を私は感じざるを得ないのです。
 だから私は、今こそ「市民の古代研究会」の運動の重要性を痛感するのです。そのきびしい科学的精神を少しでも多くの人びとが自分のものにすることを願うのです。「研究会」の今後、より一層の発展を期待してやみません。


 これは参加者と遺族の同意を得た会報の公開です。史料批判は、『市民の古代』各号と引用文献を確認してお願いいたします。
新古代学の扉 インターネット事務局 E-mailsinkodai@furutasigaku.jp

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