天は人の上に人を造らず・・・と云へり 総覧
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資料 和田家文書2 福沢諭吉『学問のすすめ』関係 天は人の上に人を造らず・・・云へリ 総覧

『東日流外三郡誌』(昭和五八年一二月二五日発行)
11,日高見国大要 藤井伊予 元禄十(一六九七)年八月 一巻 394〜98

日高見国大要 原漢文

 奥州の古事を訊ぬれば、先峯の史脈を絶して明らかならず。亦、是を審とも人各々口を閉じて語る者なし。藩令ことのほかきびしく、古事は皆、幕府、朝庭の公史に習はんとして、故地なる実相歴脈をあえて秘し、かたくなに偽伝の公史に瑞順せる多し。
 依て、茲に日高見国大要を真に基きて記し置かむなり。
 抑々、日本原民耶馬台一族之国主安日彦命長髄彦命、異土移住民なる高天原族、日向国王猿田彦を好策にかけて国侵略し、やがて東征を企て、耶馬台国を攻破り、原民を奥州に追放して、倭国を建国し、天皇即位せしめて日本国の祖とぞ、今世に至る万世一系なぞと輝やかしき史伝を作りて、民心を従かはしめきたるも、実相は大いに異なるなり。人の生命は五十乃至長寿にして七、八十の歳なるに、神武帝の如きは百二十七才、孝昭帝は百十四才、孝安帝は百三十七才、孝霊帝は百二十八才、孝元帝は百十六才、開化帝は百十一才、崇神帝は百十九才、垂仁帝は百三十九才、景行帝は百四十八才、成務帝は百七才、応神帝は百十一才、仁徳帝は百四十三才なぞと歴代を無理に連らねたるは、信じべきに非らざる也。
 神武帝より仁徳帝に至る間は、日本一統の天皇なく、安東大将軍とて宋書に曰ふ五王のはづめぞ倭国の誕生なりと信じて過言に非ざるなり。
 吾が奥州の歴脈は、日本原民の秘したるものにして、地下に人心に未だ息生せるを史者達の知らざるところなり。
 ために奥州を蝦夷国とて永く軽笑し、国賊の如く未だに征夷大将軍を継位せるは安日彦 長髄彦二柱を大祖とせるいにしいよりの怖れに依れるものなり。亦、安倍一族系譜に曰はしむる孝元帝を血脈荒吐族に属しとぞあるも、再考しべき処なり。
 荒吐族の国王は常に五王ありて、総主に至る者を安国亦は安東と襲名し、他の四王は北を津刈、西を入澗、東を卒止、南を阿舎と襲名し、是、安倍の姓に至るまで継名せり。
 荒吐族が日高見国中央国閉伊にいでたるは安日彦立君以来五十三年なるも、東日流国耳は聖域として、一族の長老在住し、国王立君のときは必ず安東浦かむい丘(館丘)と称す処にて祭礼し、四王亦は郡司も、石かむい(盛多)と称す処にて祭礼せり。
 今にして此の聖地堀[掘カ]りては、多くの遺物を見ること易し。津保化族、阿曽部族の東日流原民も荒吐族となりてより言語も統一して渡嶋原民を除く総ては皆一統せり。
 もとより東日流は日高見の国末にして、東日流は六郡二浜、宇曽利二郡三浜、糠部二郡二浜をして区堺せり。東日流六郡二浜は入澗郡、有澗郡、奥法郡、稲架郡、平河郡、鼻輪郡、蒼海浜、率止浜なり。宇曽利二郡三浜は旗郡、耶馬郡、龍吠浜、玄武浜、潮淀浜なり。糠部二郡二浜は都母郡、怒架怒布郡、澗淵浜、鬼振浜なり。
 荒吐族の一族に永く反く津保化族は糠部及び閉伊に移るも亦、地民と争いて放浪ながくして、遂には亡ぶる。世に是を倭人は執*族と称し、荒吐族を麁族と称せり。荒吐族は階級平等に私権なけれども、職をして、その暮し異りぬ。海辺住、里住、山住の者は神を崇む祭事より異りて長老いたく心を悩ませりと云ふなり。

執*は、執の下に四つ黒。

 海浜住の者は海の神、風の神、漁の神を崇め、里住の者は河の神、土の神、稲の神を崇め、山住の者は火吹山の神、木の神を崇め、是の三者共通の神は、日神、月神、星神、木神、火神、土神、金神、水神、父神、母神、死神、生神等十二神なり。是を司る者に二道あり。
 占部(ゴミソ)、霊媒部(イタコ)を以て生と死の民心を引導せり。亦、衣食住(オシラ)の神ありて子孫繁栄を祈念せるは後世にして、十二神を荒吐神とて一結修成崇拝の頃なり。荒吐神とは万神皆荒吐神の称号にこもりて他神をまつらざるは、信心異にして一族の争ふを制へたる策なり。爾来、荒吐族は祭礼をして聖なる荒吐神は日輪の如くして、万物の生死を司る無上の神となせり。日高見国は、荒吐族が放浪の諸族を引導しなし荒吐族とて一結なしたる由縁は勢を得たる基なり。衣食住の安泰、崇神の一崇は、一族のゆるぎなき結束にして、いかなる征夷の軍を以て日高見国を犯すとも征服得ざるは、荒吐族の司政に依るものにして、一族同志皆相助合ふ安住日高見国なれこそなり。
 侵敵をしてあやふきに退き、戦利ありて撃つは荒吐族の戦法なり。耶馬台国より脱着せる安日彦命長髄彦命に依る稲作施農法は、奥州の飢えを安泰せしめ、出羽及び閉伊に民心をゆるぎなき荒吐一族として、倭に対立して王国を得たる日高見国は、君民平等の故に私を赦さず、衆結を崩さざる契り固けるが故なり。依て、奥州は荒吐一族の勢は坂東及び越にも及びてとどまらず。茲に倭の国王驚胆し、急ぎ征夷の軍を起したり。
 伊吉連に曰はしむれば、奥州蝦夷は住家をもたず、五穀なき民とぞ曰ふも笑止千万なり。日高見の民は、冬期に備へたる穀物及び住家は倭人を優れて安住しけるなり。一族は己々に住居を造らず、己々に飢えを保たず、一族相互の保食と安住、織衣をなせり。今に伝ふるイコク(保食)カマド(住居)ヤメソ(織衣)等の言葉に遺れる如く、倭人が征夷にまかりて見る荒吐族の暮し知る由もなし。
 奥州に征討せし将軍に武内宿禰、日本武尊、上毛野田道将軍、阿倍引田臣比羅夫など、何れも日本史書に顕るも、奥州平征的を得られず、ただ己れを護るが故の築城なし、依て奥州征討を叶いたる倭の将軍古代になきは事実なり。
 茲に奥州の征夷に依る戦史を相審せば、何れも和議に了すは実相なり。奥州を征夷し、蝦夷をして献貢なさしめたりとは、後世の仮託なり。
 元慶の乱は、大挙せる征夷軍に胆振、飽田、淳代、閉伊の荒吐族が敗れ、更に天慶の乱には出羽の安倍国東、坂東の平將門、天喜の乱に安倍頼良、康平の乱に厨川太夫貞任の相続く一族同士の反忠に依る朝庭の好策に敗れたるは実相なり。
 安しき事なきは人心なり。祖来より荒吐一族の碇はいや固く、日高見国は敗るるを知らざるに、元慶の乱には征夷大将軍名代藤原興世が敗れ、続く坂上好蔭、藤原保則、小野春風等是れに代りて征夷に赴くも、いたく討敗れたり。
 依て、朝庭は倭、東海、東山道、越に至る募兵となりて謀るも名案企れず、征夷大将軍文室綿麻呂が荒吐族の反忠を好策、出羽の荒吐族五王なる吉禰候部於夜志閇を誘謀りて、爾薩体及び閉伊の荒吐五王を暗殺せしめたるに依て、荒吐族の司治は大いに乱れ、一族同志の戦、各処に起りて、茲に荒吐族五王総主自ら軍を卒いて鎮め巡りて、同志討合はおさまれり。時に征討軍は国東なり。是を征夷大将軍及び国司は次の如く朝庭に奏上せり。
(東日流夷俘は其の党一結し、荒吐神とぞ声高く唱叫し、幾千幾万人なるを知らず。天性勇壮にして常に習戦を事とす。若し逆賊に速かば百戦を以て当り難く、是を討は諸謀大軍を以てするとも降すこと能はず。)とぞ曰したりといふ。
 荒吐族の碇に反忠せるは飽田の上津野、火内、榲淵、野志呂、雄勝の添河、覇別、助川の郡司なり。
 荒吐族五王総主が一族のまつろはざる者を討伐せるに依りて、朝庭は安倍国東を日下将軍として除したるも、一族に官税献貢を負されるをいやみて、是を辞したるに、坂東にては平将門、一族の重税に苦しめる民人を救ふべく穀倉を破りて朝敵となるも、安倍一族、平将門を救ふべく挙兵せども、将門敗死し、安倍一族は荒吐五王の司政を改め日高見国坂東以北の領を日下領とて立君せるは安倍頼良なり。政処を衣川に置いて、朝庭への賦貢を断って日高見国及び日東(坂東)を合せて新生王国を創らむとし、平将門領なる民人及び臣下を奥州に招きて時到れるを備へしに、国司藤原登任が安倍頼良を攻めて敗北したは、永承六年七月なり。
 依て、安倍一族は益々武を備へてゆるぎなく、朝庭は源頼義をして安倍一族を討伐に向はしめたるに、坂東にて地族のぶせりに奇襲されて退きたり。
 而るに天喜四年に阿久利河にて権守藤原説貞及び光貞が安倍貞任を俘囚とあなどり、貞任が胆沢に源頼義と和議の帰途突如として襲はれたり。而るに藤原説貞光貞は敗退して胆沢柵の源頼義にかくまるや、貞任、両人を差出さむを訴へけるも、頼義、是を否したるに依て、弓箭互に放って戦となりける。
 而るにこの戦、源氏に利非らず、頼時も戦に赴き、此の戦如何なる方便をしてもとどまることなかりき。是に憶して藤原良綱は国司の新任を辞し、頼義是れを重任せるも、天喜五年、鳥海柵に安倍頼時を討死せしめたれば、貞任是を忿怒して、住民皆兵とて遂には源軍を猛雪中に攻めやぶり、頼義は生存少かに六騎にして遁逃せりと曰ふ。
 而るに、頼義は朝庭に再任を請ふて安倍一族討伐の挽回を謀り、安倍一族の反忠を謀り、出羽の清原光則、弟武則を誘謀し、安倍宗任の小松柵を抜き、衣川柵続いて厨川柵をおとしめるに到れり。時に康平五年なるも、茲に安日彦、長髄彦二柱の命より続きたる荒吐族領日高見国は倭の朝に属し、東日流耳は朝庭の鬼門に当るとして貞任の子、高星丸が平河郡淵崎に脱したるも、源氏は是を追はずと曰ふなり。
 元禄十年八月    藤井伊予


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『真実の東北王朝』(第六章『東日流外三郡誌』を問う)「神は人の上に人を造らず・・・」

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