古田武彦著作集


2013年 3月刊行 古田武彦・古代史コレクション16

九州王朝の歴史学

多元的世界の出発

ミネルヴァ書房

古田武彦

始めの数字は、目次です。

【頁】【目 次】

i はしがきーー復刊にあたって

001 第一篇 部分と全体の論理 -- 『穆天子伝』の再発見I

〈解題〉『穆天子伝』は、周の第五代の天子、穆王の業績をしるした本である。「起居注」と呼ばれた、天子の記録官の記述だ。三世紀、西晋朝のとき周墓から発見された。周字(科斗字)を今文(旧漢字)に翻訳し、公表された。三国志の著者、陳寿の時代である。
    ところが、その文面には、倭人伝との重要な相似が見られる。部分里程と総里程の記述である。今後の倭人伝研究にとって「画期をなすべき新史料」と見なされよう。(未発表)

 

025 第二篇 歴史学における根本基準の転換について
        -- 『穆天子伝』の再発見II

〈解題〉『穆天子伝』のもつ学問的意義は、重かつ大である。ただ“里程記事の先範”“倭人伝研究のための新しい鍵”といった点にとどまるものではない。
    史記・漢書・三国志といった、中国の「正史」が、“中国の天子の至上性”という、一種の中華思想によって「歪曲」させられていたのではないか。従来の、歴史の根本の基準尺に対する疑い。ーーそれが提起されることとなったのである。(未発表)

 

053 第三篇 九州王朝と大和政権

〈解題〉日本列島の歴史をありのままに知ろうとするとき、果たして「近畿天皇家一元主義」の立場から、それは可能だろうか。その答は、否ノンだ。
    筑紫を中心とする九州王朝、その分派としての近畿分王朝(大和政権)、さらに関東・東北・北海道や沖縄と、各領域独自の文明源流の認識。その多元史観に立たぬ限り、中国史書・国内史料(記・紀等)考古学的出土物分布のいずれも理解不可能なのである。(鶴岡静夫編『古代王権と氏族』所収。一九八八年八月三十日、名著出版刊

055    序
056    第一章 旧石器と縄文
058    第二章 金属器の流入と「倭国」
065    第三章 倭国の発展
084    第四章 「天智十年」における日本国の成立
086    第五章 考古遺物分布の証言
089    跋

 

095 第四篇 新唐書日本伝の史料批判 -- 旧唐書との対照

〈解題〉中国の正史の一たる『旧唐書』において、「倭国」と「日本国」が明瞭に別国として記載されていることは著名だった。にもかかわらず、それを“偽妄”として斥けてきた日本史学界が「拠り所」としたのが、『新唐書』だった。しかるに、この『新唐書』全体の史料性格を周密に再検査してみると、意外にも、それは『旧唐書』の記載を否定するものではなかった。やはり「倭国」を「日本国」以前と見なす立場に立っていたのであっ
た。
 (『昭和薬科大学紀要』第二十二号、一九八八年、所載)

 

143 第五篇 P・G型古墳の史料批判 -- 主従型の場合

〈解題〉千葉県市原市の稲荷台一号墳出土の銀象眼銘文(鉄剣)は、重要な課題をしめした。「王賜・・・・」の「王」とは誰か。果たして大和朝延の王者と断定してもよいか。それにも増して重要な一事、それは主室と副室をもつ「P・G型古墳」として、あの埼玉県稲荷山古墳(金象眼銘文付き鉄剣出土)の“先範”となっていたことである。ここから、学界がみずから目を蔽うてきた、重大なテーマが新たに万人の眼前に浮き彫りとされることとなった。(『昭和薬科大学紀要』第二十二号、一九八八年、所載)

183 第六篇 歴史学の成立 -- 神話学と考古学の境界領域

〈解題〉古事記・日本書紀の神代巻、その中心をなす神話、それは「天孫降臨」である。戦前は、教科書の冒頭を飾り、戦後は、墨で消された。
    しかし、それは本当に史実にあらぬ「造作」の説話なのだろうか。「神話的叙述と考古学的出土物との一致」という、トロヤの発掘にしめされた「シュリーマンの原則」によって、日本の神話に相対する。新しき、実証的な歴史学の成立を目指した。
(『昭和薬科大学紀要』第二十三号、一九八九年、所載)

257 第七篇 「倭地」の史料批判
   -- 中国、延辺大学の朴ジンソク氏の批判論文に答える

〈解題〉三世紀の朝鮮半島に「倭地」があったか。そして四世紀以降(六世紀前葉以前)は、いかに。 ーーこれは、日本列島内の歴史をさぐる上で重要、かつ不可欠の問いである。その上、いわゆる「倭人」や「倭国」が東アジアの世界の一画にいかなる位置を占めていたか。それを知る上で、不可避のテーマなのである。延辺大学の朴ジンソク氏の批判にこたえ、思いがけぬ新論証に到達することができた。正に率直な論争の賜物であった。(『昭和薬科大学紀要』第二十四号、一九九〇年、所載)

314    資料論文 いわゆる朝鮮半島内の倭地説について(朴ジンソク)

335 第八篇 親鸞伝の基本問題 -- 「伝絵」の比較研究

〈解題〉親鸞研究は、古代史研究の母国であった。文献処理上の学問的方法論を、わたしはここで学んだのである。
    久しぶりにこの分野にいどんだ論述、それがこの文章である。懸案となっていた『本願寺聖人伝絵』(覚如作)に対する史料批判を行ったものである。空海・最澄・道元・日蓮等、いずれもこのような史料批判のための、貴重な著述を提供している。未来の研究者に期待するところ、大である。
 (『真宗重宝聚英』第五巻、関連解説。一九八九年二月二十八日)

 

361 第九篇 偽書論 -- 論じて電顕撮影に至る

〈解題〉従来、定義なくして用いられてきた言葉、それが「偽書」である。この一語によって、在野の諸書、諸史料が一挙に、“切り捨て”られた。いわゆる、“正規の”大学内の研究者のほとんどがこれを「研究史料」として扱うことをせぬ、それを常としてきた。
    このような姿勢は果たして厳正な、学的態度といえるものだろうか。この問題の基本を、ここで吟味する。その「序説」である。あわせて電子顕微鏡撮影問題に及んだ。(未発表)

 

373 あとがき

377 日本の生きた歴史(十六)
        -- 古事記伝 -- 本居宣長批判(上)

379      序文
382      第一「宣長の底本」論
388      第二「弟と矛」論


i〜8 人名・事項・地名索引


 ※本書は『九州王朝の歴史学』(駸々堂出版、一九九一年七月発行第二刷〈一九九一年六月初刷〉)を底本とし、「はしがき」と「日本の生きた歴史(十六)」を新たに加えたものである。なお、本文中に出てくる参照ぺージには適宜修正を加えた。

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古田武彦・古代史コレクション16

九州王朝の歴史学
  -- 多元的世界の出発
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2013年 3月20日 初版第1刷発行

 著 者 古 田 武 彦

 発行者 杉 田 敬 三

 印刷社 江 戸 宏 介

 発行所 株式会社 ミネルヴァ書房

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© 古田武彦, 2013    共同印刷工業・兼文堂

ISBN978-4-623-06455-7

   Printed in Japan


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