東日流外三郡誌とは 和田家文書研究序説(『新・古代学』第1集)へ
古田史学会報 2号1994年8月18日
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古賀達也
八月四日から七日にかけて、私は古田氏・上城誠氏(本会世話人・静岡市)と共に、再び津軽の地を訪れた。今回の主たる目的は日吉神社がある相内地区の聞き取り調査と関係文献の調査であった。予想以上の成果
と同時に予期せぬ「妨害」にも出会うという、まるでドラマの世界に飛び込んだかのような、貴重な体験の連続であった。
寛政奉納額が戦前から日吉神社に存在したことを裏付ける証言を求めて、現地入りしたのだが、現地の方々の口は重く、言わば「見ざる、聞かざる、言わざる」の状態なのだ。その様子もどこか不自然で、発言も微妙に食い違ってくるのである。後に判明したことだが、現地の関係者に対して、猛烈な証言封じや「圧力」、ひっきりなしにかかる偽作論者と思われる人々からの電話攻勢に、氏子さんたちは「沈黙」「証言封じ」の状態に追い込まれていたのであった。いずれ、事の真相は明らかにされようが、現時点では真贋論争には無関係の当地の方々に、これ以上のご迷惑のかかることを恐れ、詳細は伏せることにしたい。
そうした中で、敢然と証言に応じられたのが、日吉神社宮司松橋徳夫氏である。氏は一点の曇りもなく、きっぱりと次の様に証言され、当方のビデオ録画の要望にも快く応じられたのであった。
1 私が日吉神社宮司に就任した昭和二四年には奉納額は神社拝殿に架かっていました。
2 大変古い額なので、氏子さんたちとも話題に上りました。氏子さんたちもこの額をご存じです。
3 前氏子総代さん(三和定松氏)らの記憶でも戦前からあったということでした。
4 「奉納御神前 日枝神社」と書いてあったことは記憶しております。
5 その他の部分も、それらしき字が書かれていたことははっきりと記憶しております。何と書かれていたかは、当時あまり興味をもっておりませんでしたので、内容は記憶しておりませんが、何か書かれていたのは間違いございません。
6 日吉神社が明治以前から存在していたことは古文書などにも記されています。
7 はっきりとは記憶していませんが、昭和五十年頃に、神社から別の場所へ移されたようです。 概ね以上の内容であった。松橋氏は決して多弁な方ではなかったが、自らが記憶していることと、そうでないことを明確に分けて、一つひとつ丁寧に答えていただいた。氏は四十年以上、同神社の宮司をなされており、その証言は貴重かつ重い。こうした人物までも偽作論者は会いもせずに、「共犯者」扱いをするのである。
一方、同奉納額が昭和初期からあったと証言されていた青山兼四郎氏に対しても、地元有力関係者から、発言を控えるようにと「圧力」があったそうである。青山氏は「見たものは見たんだ、嘘はつけない」と、そうした「圧力」に対して、きっぱりと拒否の返答をなされたという。今回の調査で、わたしたちは本真贋論争が学問の域を越えて、地元の人々の間に暗い影を落としていること、それでもなお、真実を主張することをはばからぬ
人々の少なくないことを目の当たりにし、一日も早く、学問の正道にかえった論争とすること、そして何よりも真実を明らかにするために一層の努力をせねばならぬことを、痛感した。
今回の調査の、もう一つの収穫。それは文献上の数々の発見であった。現在、それら内容の追跡調査を行っているが、概要のみ述べよう。
1. 和田長三郎吉次の実在を示す文献の発見(もちろん和田家文書ではない)。
2. 和田家文書が、戦後間もなく当地では知られていたという事実の確証を得たこと。
などである。現在これらについて、筆者ならびに古田氏、上城氏により調査研究が進められており、いずれ詳細な報告がなされるであろう。ご期待願いたい。
最後に、地元青森県では東奥日報などによる偽作キャンペーン、あるいは奉納額の報道拒否などにより、肝心の青森の方々に情報が伝わらないでいることが、あらためて実感された。藤崎町や青森市で行われた、古田講演会では、初めて見る奉納額の写真に、思わず会場から拍手が起こったほどであった。そして、そうした情報を報道しない地元紙に対しての憤りが会場のあちらこちらでささやかれていた。
また、恐らくまだ少数ではあろうが、青森県関係者の中にも、和田家文書や和田家が所蔵している貴重な文化財を、公的機関で保管するべきとの声が存在することも知った。真実は頑固である。地元でもセンセーショナルな偽作キャンペーンとは別
に、郷土の文化遺産として、貴重な学問的対象として、冷静に和田家文書に向かい合って行こうとする動きが芽生えていることを、自らの目と耳とで確認しつつ、帰路についたのであった。
いずれ、調査報告会を持ちたいと考えているが、今回の調査にあたり、支援していただいた会員の皆様や現地の方々に、深くお礼を申し上げて、とりあえずの調査報告とさせていただくしだいである。
これは会報の公開です。史料批判は、『新・古代学』第一集~第四集(新泉社)、『古代に真実を求めて』(明石書店)第一・二集が適当です。
(全国の主要な公立図書館に御座います。)
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