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倭人の南米大陸への航行について 古田武彦へ

本資料では、丸数字は○1は、(1)に変換しています。


『邪馬壹国の論理』(ミネルヴァ書房)IV
2010年6月刊行 古代史コレクション4

エバンス夫妻との往復書簡

1 〈古田よリエバンス氏へ〉

 はじめてお便りをさしあげます。わたしは日本の古代史を研究しているものです。三世紀の中国の文献(『三国志』の中に書かれている、日本人に関する記述の中で、わたしは一つの発見をしました。
 それは、三世紀において、日本人たち(九州の北岸をその中心とする海洋王国の日本人たち。九州は日本列島の西端に位置する島です)が、アメリカ大陸に至る海流による「航路」を知っていた、という事実です。
 「特に、南アメリカ大陸の西海岸に文明圏が存在していることを、三世紀の日本人たちが知っていたことがわかりました。
 わたしが、純粋に文献の記述に対する精密な解読によって、この事実を認識することができたのち、偶然、あなたがたがエクアドルにおいて、日本の土器に酷似した土器を発見し、その報告をされたことを知りました。
 わたしはあなたがたの発見を、第一に、日本の週刊話『朝日ジャーナル』(一九七一・七・二三)の「古代アンデスの謎」(利根山光人氏筆・三六ページ末)で知りました。さらに、昨年の『ライフ』誌(一九七〇・一〇・一六)のKarl E. Mayer氏の報告(十二ページ)により、あなたがたの注目すべき発見のことを知ることができました。
 その結果、その発見に関するあなたがたのリポート(又は著述)をぜひくわしく知りたい、そのすべてにふれたい、とわたしは切願しています。
 そこで直接、このお便りをさしあげるのです。ぜひ、一刻も早く、あなたがたの御返事に接したいと思います。また、あなたがたのリポート(および発見された土器の写真等)を、わたしの所へお送り下さるよう、お願いします。
 送っていただく著述文献の代金並びに運送費などの諸費用については、当方ですべて支払わせていただきますので、御遠慮なく、その費用をお知らせ下さるよう、お願いします。
   一九七一年八月七日
                       古田武彦
  クリフォード・エバンス様
(この日本文と同内容の英文を添えさせていただきました。 以下略 )

 

2 〈エバンス氏より古田へ〉

 親愛なる古田さん
 あなたの、古代の日本歴史上の記録に対する研究は、“新世界への航海”についての、興奥深い情報をふくんでいます。それは、歓迎すべきニュースでした。なぜなら、わたしたちは、「コロンブス以前の時代を通じて、アジアからアメリカヘ、太平洋を越えての、数多くの接触があった」という事実を確信していましたから。
 ことにメキシコとグァテマラにおいては、文化のすべての局面において、アジア的な特質とピッタリ適合した、非常に多くの類似点が存在しています。
わたしたちの意見では、「それ(アジア)と、これ(メキシコとグァテマラ)とは、別々の考案だ」というのでは、これらのおびただしい類似点を説明することは、不可能だ、と思われます。 ーー多くのアメリカの考古学者たちは、その両者を別々のものだ、と思いこんでいますけれども。
 もしあなたがあなたの発見を出版されるのでしたら、わたしはそれが英語でなされることを希望します。それによって、そんな航海が可能であったことを疑っている人々が、あなたの証言(evidence)を読むことができるようになるでしょうから。
 別便で、わたしたちはあなたに、わたしたちの専攻論文を一冊、送りました。それは、紀元前三〇〇〇年頃、エクアドル海岸部へ、日本の中期組文期の土器が渡来した事実に対する証拠(evidence)を詳述したものです。
 その荷物の中には、もう一つ、それ以後の接触をとり扱った記事のゼロックス・コピーが入っています。これは、一見したところ、アジアの大陸本土からの渡来のようです。これらに対して代金はいりません。
 それと共に、最近の一冊の本についてのパンフレットが入っています。(注)その本は、“太平洋を越えての接触”についての、各種の証拠を論じた、多くの記事をふくんでいます。あなたがこれに興味をもたれるかもしれませんので。
 もう一つ、別の本は、『アメリカ探究』と題されています。この本は、太平洋を越えた接触についての一章をふくんでいます。それはおそらく、ロンドンのペル・メル・プレスによって数カ月のうちに出版されるでしょう。
 わたしたちは望んでいます。この情報が、あなたにとって興味深いものであることを。そしてあなたが、自己の探究を続け抜かれるよう、あなたを勇気づけるために、役にたちますことを。
 すなわち、“(アメリカ側で見出された)考古学上の証拠”を、(アジア側から)文献的に確認しようとされる、あなたの探究の続行に、これが役立つことを望んでいるのです。
  一九七一年八月十一日
              クリフォード・エバンス

(注)『人間は海を越える コロンブス以前の接触の諸問題』(“Man across the sea--Problems of Pre-Columbian contacts”)
著者〈Carroll L. Riley, Cambell W. Pennington, J. Charles Kelley, and Robert L. Rans〉
ユニバーシティ・オブ・テキサス・プレス刊

 

3 〈古田よりエバンス氏へ〉

 わたしのお便りに対し、早速御返信をいただいた上、あなたの貴重な資料をお送りいただき、大変うれしく思っています。これらの資料はわたしにとって、とても興味深いものでした。
 ことにわたしを驚かせたのは一〇三図(Figure 103)の地図(三五三ページ参照、インタネットでは、「倭人の南米大陸への航行について」に掲載。)でした。そこには「九州より南米北部へ」の航路が描かれています。それはわたしが、あなたの研究を知ることなしに、純粋に中国側の文献(三世紀の日本人の航海知識を同時代の中国人が記録Lたもの)の追究によって到達した結論と同じルートをしめしていたのです。このルートは右の文献によると、“半年の航行によって到達しうる”と書かれています。
 わたしの、この発見については、今年の秋、日本でわたしを著者とする一つの本が出版される予定です。出版されたら、直ちにその本をあなたのもとにお送りいたします。この本の最後の一章が日本人のアメリカヘの航海知識の問題にあてられています。
 なお、わたしはこの問題を、さらに精密な証拠で確定すべく論文を書くつもりです。それらも、それらが出来上がり次第、逐次わたしはあなたのもとにお送りすることをお約束します。
 さらに、あなたの資料集の中の写真の数々は、今つきぬ魅力をもってわたしをひきつけています。わたしたち日本人が子供のころよリ見たり聞かされたりしてきた、なじみ深い縄文式土器とあまりにも酷似した数々の土器がエクアドルの海岸から出土した、この事実に驚嘆しています。ことに一二〇〜一二三図の中の数々の人物像は、あまりにも“日本入らしい”もしくは“日本人好み”の顔をしています。日本の考古学的出土品の中の「顔」についても、わたしたちは徹底的な再検討が必要だと思います。
 また、お知らせいただいた本について、早速注文いたしました。その本の到着を待ちのぞんでいます。
いろいろ他にも申し上げたいことがありますが、今回は何よりも、早速御返信を賜わり、すばらしい資料によってわたしを勇気づけて下さったことに対し、  厚い御礼を申し上げたいと思って、このお便りをしたためました。
  一九七一年九月一日
                           古田武彦
 クリフォード・エバンス様

 

4 〈古田よりエバンス氏へ〉

 わたしの住んでいる京都では、紅葉の美しい季節です。御地ではいかがですか。この夏は突然お便りしましたのに、早速写真資料などお送り下さり、有り難うございました。
 前のわたしの手紙でお約束した、わたしの著書(注)が出版されましたので、お送りします。これは三世紀中国の歴史書『三国志』の中の「倭人伝」(三世紀の日本についての記録)の研究です。
 この本の第六章のIII 「アンデスの岸に至る大潮流」の項は、三世紀日本人の知っていた南米西海岸部ヘの航路について記述しています(同書三九九ページの地図参照インタネットでは、「倭人の南米大陸への航行について」に掲載。)。
 しかし、ここでは、本の紙数の関係上、極めて圧縮した形でしかのべることができませんでした。したがってこの問題(三世紀日本人の太平洋横断)について、わたしは独立した学術論文を書きたいと望んでいます。その際は英文の形でお目にかけることができれば、わたしのもっとも幸いとするところです。
 御夫妻の御健康を西方より、はるかにお祈りいたしております。
  一九七一年十一月三十日
                      古田武彦
 クリフォード・エバンス様

 追伸
 三世紀日本に存在した、高名な呪術的女王卑弥呼の国について、日本の読者の中で関心が高いため、学術的内容をもつ、この本が一般書の形で出版されたものです。(この国の国名は、従来言われていた「邪馬台国」ではなく、「邪馬壹国」です。なお、この本の出版社である、朝日新聞社は日本で最大の発行部数をもつ新聞社です。)
(注)『「邪馬台国」はなかった』(一九七一年十一月・朝日新聞社刊)

 

5 〈エバンス氏よリ古田ヘ〉

 親愛なる古田様
 クリスマス直前に、わたしたちは、あなたの日本語の本を受けとりました。
 わたしたちは、あなたがそれを送って下さったのを有り難く思っています。わたしたちがその中で解読できる唯一の部分は、三九九ページの地図だけですけれども。
 わたしたちは、大きな関心をもって将来の一つの出版を期待しています。その出版とは、あなたの研究の詳しい細目がしめされ、それによって、古代日本人がもっていた、南アメリカヘの、この海上ルートの知識に対する、あなたの研究が、英語で読めるようになることです。
 わたしたちが、この前あなたにお手紙を書いてのち、わたしたちは一人のアメリカの青年に会いました。彼は、一つの探検隊を組織しようとして努力しています。それは、アジアからアメリカヘの旅行を、このルートに沿って、一隻の中国のジャンクでおこないたい、というものです。
 彼は、今年の終わりごろ、日本や台湾や香港ヘ、予備的な旅行をするつもりだと思います。それは自分たちの計画の可能性をしらべ、より多くの背景をなす情報を得るためです。
 わたしたちは、あなたのお名前と住所を、彼に知らせることについて、あなたの許可がえられることを望んでいます。それによって、彼はあなたとこのテーマについて話すことができ、おそらくあなたのアドバイスから、利益をうることでしょう。
 今年も、あなたの研究の成功がつづくことを、心からお祈りします。
  一九七二年一月二十八日
                      クリフォード・エバンス

補注 ーー古田〉ここに書かれている、アメリカの青年の計画が、昨年来報道された「タイキ号」の実験と、同一か否か、さだかでない。

 

6 〈古田よリエバンス夫妻へ〉

 あなたの一月二十八日づけのお便り、二月のはじめに大変うれしくいただきました。わたしの本も、無事お手もとにとどいたことを喜んでいます。
 その上、アジアからアメリカまで、中国のジャックによって、航海しようという、一人の勇敢なアメリカの青年についてのお知らせは、わたしを深く感動させています。これはヘイエルダールの実験におとらず、すばらしい学問的壮挙である、と信じます。
 ですから、この勇敢な青年が必要にして十分な準備をされますよう、くれぐれも御注意賜わりますよう、切にお願い申し上げます。
 わたしの名前と住所をその方にお知らせ賜わりますことは、もちろんわたしの光栄とするところです。その方がもし日本に来られましたら、近年太平洋をヨットで横断した経験を持つ、日本の青年たちにお会いになるならば、有益な助言をお受けになれることと存じます。この点、もしこの方がそれをお望みならば、日本の新聞社(朝日新聞社)がこれらの青年に連絡または紹介の労なとってくれると思います。
 この日本の青年たちが太平洋横断の経験について書いた本(注)を別便(航空便)でお送りします。御参考になれば幸いです。
 何とぞ勇気と慎重さをもって事が行われますよう、遠く日本より切願いたしております。その方によろしくお伝え下さい。
 また御夫妻の御研究の深化と発展をお祈りいたしております。
  一九七二年三月十一日
                    古田武彦
 エバンス夫妻様

(注)堀江謙一著『太平洋ひとりぼっち』(文芸春秋社)
   牛島龍介著『犬と私の太平洋』(朝日新聞社)

 

7 〈エバンス夫妻より古田へ〉

 親愛なる古田様
 わたしたちは数日前、三月十一日付のあなたのお手紙を受けとりました。そして今日、二冊の本の入った小包をいただきました。
 わたしは、あなたの手紙の写しをべルヒャー氏へ送っています。彼は、あなたが自分に会うのみならず、多くの助力を与えてくれるであろうと知って、とても喜ぶと、わたしたちは確信しています。
 わたしたちは、日本の青年たちがすでにその横断をなしとげていたことを知りませんでした。わたしたちは、彼等の航海について、こちらの新聞・雑誌では、何も見ませんでしたので。
 数年前、わたしたちは何人かの青年たちから、そんな旅行に関する問い合わせをうけたことがあります。しかし、彼等が、その企図ヘの自分たちのアイディアを、仕遂げたかどうか、知ることができませんでした。
 これらの本は大変興味深く見えます。それで、わたしたちが日本語を読めないのを、とても残念に思います。けれども、そこにのせてある地図は、その海のルートをしめしてくれています。
 また、わたしたちは誰か翻訳のできる人を探そうと思っています。でなければ、少なくとも原文の要約をしてくれる人を見つけたいと思います。
あなたの関心と、あなたの御協力を深く感謝しています。もし、ベルヒャー氏が十分な経済的援助をうることに成功されれば、あなたはきっと、京都で彼に会うことができるでしょう。
 心からご多幸を祈ります。
  一九七二年三月十六日
                べティ・J・メガース
                クリフォード・エバンス

 

8 〈古田よりエバンス氏へ〉

 前回のお便り以来、御研究に大きな進展がおありになったことと存じます。
 幸いにも当方では、古代日本人の南米大陸への航海に関する新史料を見出すことができました。その文献は「海賦」(それは航海の物語です)と題されています。わたしは、のちほど、それを英語に訳してあなたにお見せいたしたいと思っています。
 さて、わたしはあなたに、崎谷(さきや)哲夫氏を御紹介いたしたいと思います。彼は朝日新聞社の編集部にいますが、今回は、彼自身の研究目的のためにハーバード大学を訪問する予定です。
 恐縮ですが、氏を通して、その後の情報と材料について御教示賜わらば幸いです。つまり、『エクアドル海岸部の早期形成時代(注)』(“Early Formative Period of Coastal Ecuador”)と題されだ、あなたの本(前にお送りいただいたもの)の刊行以後の研究状況です。
 またあなたが、一九七三年三月十六日付のお手紙でふれられたべルヒャー氏についての、最近の情報に関して、氏にお告げいただければ幸いです。
  一九七五年二月三日
                 古 田 武 彦
 クリフォード・エバンス様

(注)(The Valdivia and Machalilla Phases) Smithsonian contributions to anthropology, Volume I; Smithsonian Institution, Washington 1965.
著者 <Betty J. Meggers, Clifford Evans, and Emilio Estrada>

 

9〈古田よりエバンス夫妻へ〉

 研究にお忙しい毎日と存じ上げます。先日は友人の崎谷哲夫氏(朝日新聞社勤務)が貴方の研究所におうかがいいたし、有益なお話をしていただいたことを帰国後の彼から聞きました。またべティ・J・メガースさんの興味深い著書『先史アメリカ』(“Prehistoric America”)を彼から受け取り、深く喜びつつ読んでいます。
 さて、わたしは今年中にわたしの論文とエッセイを収録した本を出版するつもりです(仮題『古代史ヘの疑い(注)』朝日新聞社刊行予定)。その中には、三世紀倭人の太平洋横断と南米大陸到着に関する、新しい史料と新しい論文も収録されます。それによってこの命題が決して単なる興味本位のテーマではなく、真摯(しんし)かつ学問的な追究の帰結であることを、学界及び一般の関心ある人々にしめそうとするものです。その史料と論文は英訳の上、お送りいたす日を期しております。
 その本の中に、この数年間に貴方とわたしとの間に交わされた便り(往復書簡)を掲載いたしたいと思います。それはひとえにこの命題のもつ意義を研究者や多くの心ある人々に知ってもらい、それによって、より深くよリ広い研究が今後発展するための、よき刺激となることを期待するためです。
 何とぞ右の趣旨を御理解いただき、右の掲載の御許可の御返事をお送りいただくことを切にお願い申し上げます。
  一九七五年四月二十日
                        古田武彦
 クリフォード・エバンス様
 ベティ・J・メガース様

追伸
なお、右著書の収載諭文中に、左の二写真を掲載させていただきたく、この点も、御許可お願い申し上げます。
1. “Early Formative Period of Coastal Ecuador”, Smithsonian Institution, Washington, 1965. Figure 103.
2. “Prehistoric America” Betty J. Meggers. Figure 14,15.
(注)これが、本書である。

 

10 〈エバンス夫妻より古田へ〉

 親愛なる古田様 あなたのお手紙への、わたしたちの御返事がおくれていましたのは、わたしたちの初期の文通のコピーを捜(さが)していたためです。
 どういうわけか、わたしたちはそれを見つけることができませんでした。ですから、わたしたちはあなたが、そのコピーをわたしたちの所ヘ送って下さるならば、ありがたく存じます。それによってわたしたちは、わたしたちの今まで書いたことが、やはり今でも正確であるかどうか、それを確認することができますから。
 あなたは、アルゼンチンの学者、ワルター・ガルディニ(Walter Gardini)に会われたことがありますか。彼は今年、京都で暮らしています。彼は太平洋を越えた接触に対して、深い関心をもっています。そして同一の関心をもった、日本の学者たちを求めています。
 もしあなたが彼に会ったならば、あなたは多くの共通の関心を見出されることと存じます。彼の住所は次の通りです。住所は略。

 あなたのお手紙に関するファイル(とじ込み)を見つけることができませんでしたので、わたしたちは、あなたが太平洋を越えた接触に関する、すべての記事のコピーをもっておられるかどうか、確かめることができません。
 ベティは、『アメリカ探求』(“The quest for American”)と呼ばれる本に一章を寄稿しました。その章は、主としてマヤとバルディビアを取り扱ったものです。彼女はシャン オルメク(Shang-Olmec)の類似点に関する、別の記事の抜き刷りをあなたにお送りするでしょう。それは先月出版されたものですが、彼女はその抜き刷りをうけとり次第、すぐさまあなたにお送りするはずです。
 わたしたちの出版物から、あなたがあなたの指定された挿し絵を翻刻されること、それについて、わたしたちは許諾(permission)いたします。
 もしあなたがお望みなら、わたしたちはあなたに十四、十五図の写真原版(8X10インチ〈約20X25センチ 古田注〉のもの)をお送りすることができます。それは翻刻するには、(本の写真から転写するより)よりよいでしょう。
 わたしたちは、あなたのお仕事がうまくいっていることを知って喜んでいます。そしてわたしたちが、それにお手伝いできることを喜びといたします。三世紀における日本人の航海に関する、あなたの新しい証言(evidence)は、実に“魅惑的”というべきです。それは、ほぼ、マヤ古典文明の初期と、ぴったり一致するようです。
  一九七五年四月二十九日
                  べティ・J・メガース
                  クリフォード・エバンス

 

11 〈古田よリエバンス夫妻へ〉

 御親切なお便りをいただきながら、御返事のおくれたことをお許し下さい。親戚に重病の者あり、そのため、忙しい日々に追われておりました。
 この前、お願いした、わたしの本の中に掲載させていただくお便り(あなたのわたしへの書簡)のコピーを同封いたします。これによってあなたの御許可をいただくことをお願いします。
 また、あなたから御厚意をもってお申し出でいただきました、左記の写真原版、至急お送りいただければ、此の上なき幸せです。
1. “Early Formative Period of Coastal Ecuador”, Smithsonian Institution, Washington, 1965. Figure 103.
2. “Prehistoric America” Betty J. Meggers. Figure 14,15.
 また、メガースさんの論文をお送りいただきまして、ありがとうごぎいました。とても興味深く拝見しています。
 また、御連絡いただきましたワルター・ガルディニ氏に再度お会いし、楽しく話しあいをいたし、双方とも有益でした。ありがとうございました。
  一九七五年六月三十日
                       古田武彦
 クリフォード・エバンス様
 べティ・J・メガース様

 

12 〈エバンス夫妻より古田へ〉

 親愛なる古田様
 六月三十日づけの、あなたのお手紙と、わたしたちの初期の手紙を有り難くいただきました。
 あなたの求められた写真を探すうちに、わたしたちは、それらの手紙の原文を入れたファイルを見つけました。そのファイルは、まちがった場所に置かれてあったのです。
 あなたのお求めになった図版の写真を同封しました。また、それらの手紙類を見直すうちに、『アメリカ探究』の中のメガース博士の論文のコピーを、あなたがおうけとりになったかどうか、ハッキリしなくなりました。そこで、そのゼロックス・コピーを入れておきます。
 もう、何カ月もの間、ベルヒャー氏からのお便りはありません。最後のお便りでは、彼はその航海のための資金を見出すのに、成功しなかった、とのことでした。
 わたしたちの手紙から、御自由に引用なさって下さい。一九七一年に書かれたものだけが、“太平洋を越える”問題について、何らかの具体的な論評(concrete comment)をふくんでいるのですけれども。
 わたしたちは、あなたの病気の御親戚がもう回復しておられることを望んでいます。そしてあなたの本の完成を祈っています。「アマゾニヤ」について、メガース博士の書いたものが、日本語に訳され、今年末までに出版の予定です。それは“太平洋を越えての接触”を論じているものではありません。むしろ、コロンブス以前と以後の時代における、アマゾンの低地帯の環境ヘの順応の諸問題を扱ったものです。
 御多幸をお祈りします。
  一九七五年七月十七日
                 クリフォード・エバンス
                 ぺティ・J・メガース

 

13 〈古田よりエバンス夫妻へ〉

 幸いにも、本日、七月十七日づけの、あなた方の、御親切なお便りをいただきました。
 その中には、あなた方のお手紙の引用に関する、あなた方の許諾がのべられています。わたしの次の本には、あなた方とわたしとの問の、すぺての往復書簡を掲載した一章がふくまれています。
 その上、あなた方のお便りには、四枚のすぐれた写真が入っていました。それは明確かつ真実(リアル)です。日本の真摯な探究者はすべて、この,“太平洋を越える”問題に、鋭い関心をもつこととなるでしょう。わたしは、そう信じます。
 私は、『アメリカ探究』における、メガース博士の論文のコピーを有り難く拝見しています。その上、『アマゾニヤ』が日本語訳され、そして出版されることは、すばらしいニュースです。わたしは、その日を待ちに待っています。
 わたしの病気の親戚 義兄 は、死にました(注)。心から御心配いただきましたにもかかわりませず。彼は想像力豊かで創造的な科学者でした。わたしはその人を永遠に失いました。
 そして今、わたしは徹底的にわたしの探究を仕遂げよう、そう願っています。あなた方の御親切はわたしを力づけてくれました。
 わたしの次の本は、この秋のはじめ頃出版されることでしょう。 有り難うございました。
  一九七五年七月二十一日
                    古田武彦
 クリフォード・エバンス様
 べティ・J・メガース様

注 一九七五年七月二日、永眠。井上嘉亀(神戸大学工学部、六十二歳)。


古代史再発見1 卑弥呼と黒塚

『邪馬壹国の論理』ー古代に真実を求めてー

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