書評
張莉著『こわくてゆかいな漢字』
(二玄社) 定価二〇〇〇円 出野正
張莉が今年六月に『こわくてゆかいな漢字』を上梓しました。四年前に『五感で読む漢字』(文春新書)を出版しましたが、それ以来の出版です。
張莉は、日本の大学に漢字学が根付いていないのは不思議だといいます。中国文学や唐詩の研究者は多くいるのに、漢字学を研究する学者が中国に比べて少ないのです。『魏志』倭人伝や『後漢書』などの翻訳は数十年前に行われたものをそのまま使っており、かなり古い歴史観によって書かれたものです。それを掘り起こそうという学者は今のところ現われていません。張莉は、そのような状態に問題意識をもち、日本中にもっと漢字学の基礎を学ぶ機会を与えるべきだといいます。古田史学の会の皆様にはぜひ、漢字学を学んでいただきたいと思います。古文献によって書かれた記事を正確に読み取り、それを歴史の真実の論拠とすることを志していただきたいと存じます。
『こわくてゆかいな漢字』は、漢字を一般の人に漢字を学んでいただくために、漢字の原義と本来的な使われ方をわかりやすく書いた本です。楽しく読んでいただくために多くのイラストも載せました。それらを理解することにより、古代中国の文化的様相にもあわせて触れていただこうという願いもあります。楽しく、漢字学の扉を開いていただきたいのです。
一つの例を挙げておきたいと思います。「眉」は甲骨文を「 」につくり、眉飾りをつけている形です。「媚」は眉飾りを施した巫女です。漢代には巫蠱媚道ふこびどうという呪咀の方法があって、巫女に敵を呪わせました。「夢」は甲骨文を「 」につくり、巫女のあやつる呪霊は敵方の王の睡眠中に夢魔となって現れ、その心を乱すとされています。夢魔によって殺されることもあり、それを「薨こう」といいます。戦争で打ち破った敵方の呪力を奪うために巫女を殺すことを「蔑」といいます。巫女は魔女であったのです。女の恐ろしさは昔も今も変わらないようです。
これは会報の公開です。史料批判は、『新・古代学』(新泉社)・『古代に真実を求めて』(明石書店)が適当です。
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