「エクアドルの地名」大下隆司(会報八一号)へ
「カヤ」と「アヤ」
アイヌ語(縄文語)地名としての考察
仙台市 菊池栄吾
私の「バルディビア旅行で考えたこと」(会報八〇号)に対して、大下隆司氏から「エクアドルの地名」(会報八一号)において、ご教示頂き、まず御礼申しあげます。「語頭のK音が発音されない」ということは、私の早とちりの様です。その後、アイヌ語について更に調べて新しく見つけだした事もありますので、整理し直してみました。
アイヌ語には「私」を表す言葉として
「ア(A)」と「ク(KU)」があります。「ア」は「他動詞における四人称主格」「名詞における四人称所有格」とアイヌ語辞典には説明されておりますが、「話相手を含んだ我々が・の」という意味であり、集団としての「私達」と言うことになります。「ク」は「一人称単数主格」となっておりますが、用例では「ク・ウタリ(私の身内)」のように所有格としても扱われています。
「ヤ」は(会報八〇号)でも述べたように「陸地」「岸」「陸(オカ)」のことであり、「クヤ」は「私が住んでいる陸地」という意味になります。韓半島では「狗邪(クヤ)」となり「伽邪(カヤ)」と変化したのです。
一方、バルディビアの「AYAMPE」ですが、この「ア」には「名詞における四人称所有格」すなわち「貴方達を含んだ私達の」を適用すべきものと考えます。すると「AYA」は「貴方達を含んだ私達の住む陸地」となり、「AYAMPE」は、そこを流れる川となります。
大下氏の指摘は「私はAYAMPEというのはスペイン語にまったく影響を受けていないネイティブのインディオの言語に由来していると思います。従って縄文語・アイヌ語とエクアドルの川の名前「AYAMPE」との、スペイン語を介さない直接の関係を調べるべきと考えます。」というものでした。答になったかどうか分かりませんが、お陰様で、私のアイヌ語の勉強も多少進むことができました。
ここで少しアイヌ語地名研究について触れてみたいと思いますが、アイヌ語で説明できる地名は、北海道はもとより、東北地方にも多数見られます。さらに、四国・九州・沖縄までもアイヌ語地名と言われるものがあります。
しかし、この場合注意しなければならない事は、ここの例では「YA」が「陸地」「岸」の意味として使われている地点がどれだけ多くの例が見出だせるかです。例えば「ペ(PE)」「ペッ」が川・河を表す例などは「登別」で代表されるように数が多く問題がありません。「ヤ(YA)」については、八雲が「YA(陸岸)KUMA(の横山)」で島根半島をさすという説があります。北海道の渡島半島にも八雲があります。
その他にも「ヤ(YA)」が「陸地」「岸」として使われた地点名は探せますが、出来るだけ多くの例が挙げられれば良いのです。地名研究は思い付きの語呂合わせで幾らでも論じられると言われますが、これに対抗するには統一した論理で、数多くの例題を説明できるかどうかなのです。
(参考)
■「アイヌ語沙流方言辞典」田村すず子(草風館)
■「アイヌ語辞典(千歳方言)」中川裕(草風館)
■「縄文人の遺産」梶浦 浩(行人社)
これは会報の公開です。史料批判は、『新・古代学』(新泉社)・『古代に真実を求めて』(明石書店)が適当です。
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