2009年 9月14日

古田史学会報

91号

1拝観、「白雉二年」銘奉納面
愛媛県周桑郡丹原町
福岡八幡神社蔵
 古賀達也

盗まれた国宰
 正木裕

3 「長柄」地名考
 伊東義彰

伊倉9
天子宮は誰を祀るか
 古川清久

無礼講
 深津栄美

6「梁書」における倭王武
の進号問題について/
臣下から「日出処天子」の
変貌をもたらしたものは何か
菅野拓(なし)

倭王の「系図」と都域
 古賀達也

古田史学会報一覧

ホームページに戻る

大化二年改新詔の考察 古賀達也(会報89号)
法隆寺移築考 古賀達也(会報92号)

白雉二年九月吉日奉納面の紹介 正木裕(会報90号)

「白雉二年」銘奉納面メール論談 大下隆司/正木(会報93号)


拝観、「白雉二年」銘奉納面

愛媛県周桑郡丹原町福岡八幡神社蔵

京都市 古賀達也

 『古田史学会報』No.九〇の正木裕氏稿「白雉二年九月吉日奉納面の紹介」にて報告された「白雉二年」銘奉納面を、四月四日に行われた「西条(橘・氷見地区)研修」(古田史学の会・四国主催)において実見することができた。その結果、貴重な知見が得られたので、取り急ぎ要点のみ報告する。
 同奉納面は愛媛県周桑郡丹原町の福岡八幡神社に蔵されており、今回、同神社宮司越智義大氏の特段のご厚意により拝観・写真撮影させていただいたものである。越智宮司のお話によれば、同奉納面は昔から福岡八幡神社に伝わってきたもので、昭和四二年に郷土史家真鍋充親氏(『伊予の高嶺』昭和四四年刊で紹介)が発見されるまで、裏側に書かれた白雉二年などの文字の存在には気づかれなかったとのこと。
 今回、奉納面を拝観し知ったことだが、同奉納面はいわゆる「翁」の面で、美術的にも見事なものである。ただ、残念ながら表側は長年月による「風化」が全面的に進み、塗装・彩色は剥がれ落ち、木の地肌が露出している。裏側は赤みを帯びた塗装が比較的残っており、文字はその裏面に書かれていた。
 その文字は小さく、汚れと見間違うほどで、神社側でも長く気づかれなかったと言われたのも当然と思われた。わたし自身も最初はその文字を見つけることができず、赤外線写真によらなければ無理かと、観察を断念しかかったのであるが、同行の正木裕氏が「白」の字の一部と思われる痕跡(墨跡か)を発見され、その部分(額の中央で鼻の真上部分)を再度熟視したところ、「白」「年」「九」の字を確認することができた。正木氏の観察眼のおかげである。
しかしながら、文字の全体を肉眼で確認することはできなかったので、後日、赤外線撮影などを実施したい旨告げて、同神社を後にしたのだが、事態は急変することになる。それは昼食時のことである。参加者各人が撮影したデジカメの画像を確認していたとき、そのお一人、山中哲夫氏(古田史学の会・四国、松山市)がデジカメのディスプレイに文字が見えることに気づかれたのだ。山中氏が写された奉納面の画像には、表面の赤黒い塗装の上に黒い文字が見事に浮き上がっていたのである。おそらく、デジカメの解像力と画像拡大機能により、僅かな色差が強調されたものと思われる。
 その画面には次のような文字列がはっきりと写し出されていた。

 奉 白雉二年
 納 九月吉日

 文字は小さく、筆跡は丁寧で美しい楷書体であった。文字列の上下左右も確認したが、他に文字らしきものは見えず、昭和四二年に真鍋氏が発見された通りの内容であった。
この山中氏によるデジカメ画像は鮮明で、予定していた赤外線写真撮影も不要と思われるほどであり、古田史学の会ホームページにおいて公開を検討している。
今回の調査において、成果はこれにとどまらなかった。白雉二年という年次(九州年号・六五三年)が奉納面のみならず、現地の史料中にも見いだされたことである。その史料は「無量寺文書」と称されるもので、今井久氏(古田史学の会・四国、西条市)より御教示いただいた。
 いただいた資料によると、次のような記述がある。

 「聖帝山実報寺縁起前之次
 聖帝山二代ノ時人皇三十七代孝徳天皇ノ御宇◎白雉二年始メテ一丈六尺ノ繍佛ヲ作リ其外千佛ヲ刻ム、云々。」

 今井氏の説明によれば、実報寺は無量寺の末寺とのこと。西条市近辺で白雉二年に造仏など大がかりな仏教的事業が行われたことがうかがえるが、福岡八幡神社の白雉二年奉納面もそれに関連して奉納されたものではあるまいか。いずれにしても、白雉二年という奉納面の年次が、この地域にとって重要な年であり、奉納面の「白雉二年」という記述が孤立したものではなかったことが判明したのである。この史料状況は同奉納面の信憑性を高めるものである。
 無量寺文書の原本調査や史料批判は今後の課題であるが、奉納面と共に貴重な史料であることを疑えない。
 最後に、今回の調査を企画していただいた合田洋一氏初め古田史学の会・四国の方々、調査にご尽力いただいた現地の皆さまに深く感謝を申し上げたい。


 これは会報の公開です。史料批判は、『新・古代学』(新泉社)・『古代に真実を求めて』(明石書店)が適当です。

 新古代学の扉 インターネット事務局 E-mailはここから

古田史学会報91号

古田史学会報一覧

ホームページへ


Created & Maintaince by" Yukio Yokota"