巻頭対談 虹の架け橋 ロンドンと京都の対話 森嶋通夫・古田武彦(『新・古代学』第4集)を掲載
森嶋通夫氏に捧げる弔辞古田武彦、会員からのお便り浦島伝説 森茂夫、事務局便り
森嶋通夫氏に捧げる
弔辞
古田武彦
「我、知己を失えり」
天に向かって、再度叫ぶ。天は答えることなし。
わたしは森嶋さんにお会いしてから、数年しか経っていません。お会いしたことも、何度でしょう。とても、十数回には達していないと思います。
けれども、人とのつながり、真の交流とは、年数によるものではありません。もちろん、回数にも。
わたしの恩師、村岡典嗣先生にお会いできたのは、わずかに三ヶ月。正確に言えば、一ヶ月と二十日間くらいでした。東北大学に入学した四月上旬から、農村への勤労動員に出た五月上旬の終わりまででした。しかし、学問上、終生にわたる深刻な影響がわたしの生涯に刻まれました。
森嶋さんの場合も、同じです。京都の立命館大学の、狭い講師室でお会いし、夢中で話しつづけた三時間半、わたしは自分の晩年において、えがたい先達、真の知己を見出したのです。森嶋さんもおそらく、わたしに対して「後生」の研究者として、温いまなざしを、強く、深く、むけておられた。わたしにはそう思われました。──人間の直観として。
その後も、さまざまの御教示、ご提案を惜しみなく与えつづけて下さいました。国際高等研究所にお呼び下さったこ
と、わたしとの対談に応じて下さったこと、など。未成立のものも、あります。関西の古代史の諸学者との討論集会(二日間)、わたしの(古代史の)通史の英訳本のロンドン発刊などです。いずれにも、森嶋さんのわたしに対する(先達としての)温情が深くこめられていました。
それらをわたしは、決して忘れません。無にしません。必ず、必ず、貫徹して、黄泉の地において、すべて御報告申し上げます。
「我、知己を失えり」しかし日本の、この京都の空は、あのロンドンのテームズ河の、そしてリトル・ロードの空と、いつもつながっています、──永遠に。
古田武彦
二〇〇四年 七月十九日
森嶋通夫さんの御霊前に──
会員からのお便り
浦島伝説
竹野郡網野町 森茂夫
ご無沙汰しています。今日店頭に並びました平凡社「別冊太陽 カタリの世界」の一章に網野浦島伝説が掲載されています。昨年秋から冬にかけて網野神社、森総本家、そして別家である父の家に突然取材に来られました。この時、私も同行しましたので、私の写真や拙論も恥ずかしながら紹介されています。多くのことをお話ししましたが、紙幅の都合や編集者の意図もあり、あのような形で出版されています。もしもよろしければご覧下さい。
なお、網野浦島伝説の次に伊根の浦島伝説が掲載されています。ここで「あれっ」と思ったことを言いますと、「延年祭」で捧げられる「立花タチバナ」です。その形なのですが、宮嶋宮司は「農業の繁栄や養蚕の繁栄を祈っての形」と解説しておられます。
しかし、古田先生に確か西江さんという方が進言されたように記憶していますが、非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)はバナナであるというなるほどと思わせる説を私はすぐに思い出しました。
この不思議な物体は俵かもしれないし、繭かもしれないとは思うのですが、太いアケビのような形やぶら下がり方を見ると違和感を持ちます。また、「タチバナ」と命名されている以上、古代より言い伝わっているタジマモリの非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)をイメージした造形かもしれないと考えるのです。
そしてその非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)は「橘の実」の形ではなく、別の食べ物に似ているわけで、あえて言えば「アケビ」、西江説を支持しながら考えるとバナナ、という思いを持ちます。もちろん、「思いつき」で「実証的」な考察ではありませんが、つけ加えてお知らせしておきます。
(二〇〇四年五月)
事務局便り
▼創立十周年記念講演会は大成功でした。オランダの難波さん他、北海道や九州・沖縄・四国・関東からも多数の会員にお越し頂きました。
▼多元・関東の高田会長様、東京古田会の田藤幹事様、青森市民古代史の会藤本様にもご臨席賜り、厚く御礼申し上げます。
▼そして、全国の会員の皆様、当日お手伝いいただいた関西の会員の方々、講師の皆様にも感謝申し上げます。
▼古田先生のお病気も順調に回復されているようで、何よりです。研究も新発見続出とのことです。
▼関西例会も活況です。遠くは相模原市や姫路市からも参加があります。最新の研究成果や会報に載らない情報も得られます。終了後の懇親会も好評。お気軽にご参加下さい。
▼十月三十〜三一日、京都大学で開催される日本思想史学会にて、古田先生・松本郁子さん・古賀が研究発表予定です。
▼暑中お見舞い申し上げます。@koga
これは会報の公開です。史料批判は、『新・古代学』(新泉社)・『古代に真実を求めて』(明石書店)が適当です。
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